映画「アルキメデスの大戦」三度のオチに打ちのめされる

アルキメデスの大戦を見ました。

この映画、太平洋戦争の凄惨なシーンは冒頭に含まれていますが、いわゆる戦闘や戦術を舞台とした映画ではありません。海軍の会議室における戦いがメインステージになります。
途中の頭脳戦のドキドキ感もさることながら結末が本当にしびれます。史実は日本人なら誰もが知っているのに「そういう結末を持ってきたか」と、唸り考えさせられます。現代の公共事業のあり方にも、これは本当に共通しています。また、少し飛躍しますが、右傾化する日本と世界情勢にも憂いが及ぶところでもあります。

航空機の発展を確信し、今後の海戦は航空母艦の充実が鍵を握ると考える山本五十六(キャストは舘ひろし)と、従来の戦果や敵に与える脅威を唱え、戦艦建造に固執する嶋田繁太郎(同・橋爪功)の、イデオロギーと建造予算をめぐる対立に、帝大(現在の東京大学)の元学生で数学の天才である櫂(かい、キャストは菅田将暉)が数学を武器に派手に立ち回ります。
もちろん、この櫂は架空の人物ですし、戦艦建造にこだわったのは嶋田(のちの海軍大臣、A級戦犯)ではないとするのがたぶん一般的な歴史観ですが、山本や嶋田の、今に伝わる人物像が丁寧に描かれていることからかなり巧妙にリアリティがあります。監督の山崎貴さんはVFXによるリアリティだけでなくこういうこともできるのか、と、懐の深さを感じます。
原作は、三田紀房さんの同名漫画。こちらは未読ですが、いつも他にない視点のテーマを描く漫画家さんなので、原作も読んでみたいですね。

で、三度のオチとはどういうことでしょうか、私なりのレビューです。

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1つ目は主人公、櫂の勝利というフィクションとしてのカタルシス、2つ目は戦艦大和建造(そして悲惨な結末)の史実、3つ目はもしかしたら本当にこんな真実が隠されていたのではないかと信じたくなるフィクションとノンフィクションの境界、これらがラストに畳み掛けてきて、グラグラと感情を揺すぶられます。

他にも見どころはたくさんありますが、ちょっとストーリーから外れた視点で一つだけ。
櫂が黒板に長大な数式を書きながらの長ゼリフです。菅田さんすごいわ。他にボキャブラリが浮かばない。すごい、圧巻。
長ーい数式を書くこと自体は、そのテーマがわかっていれば数学者であればそんなに大変ではないのですが、おそらくそういう経験を積んだことがなくて、かつ複雑で長いセリフを鬼気迫る勢いで話すという3つの芸当を同時にやってのけるのは並大抵じゃありません。相当練習しただろうな、と思います。役者ってすごい。監督の「カット」の声がかかった後には並み居るベテラン俳優陣から拍手が起こったそうです。

ちなみにタイトルになっている「アルキメデス」ですが、紀元前の数学者でして、細工が施された王冠が純金であるか否かを、王冠を溶かすことなく、かつ誰でもできる簡単な方法で見分けることができた「アルキメデスの原理」を発見した人です。タイトルにも重要な意味がありまっせー。

変わり者である櫂少佐と、年上の部下であり真面目一直線の田中少尉(キャストは柄本佑)の、反発から尊敬と信頼に変わるパディもの(友情もの)としてもニヤニヤできますので、ぜひご覧ください。

それでは、楽しい映画ライフを。

photo by lasta29

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